コンサルタントとして、クライアントやチームのパフォーマンスを最大限に引き出す方法を常に探している方も多いでしょう。そんな中、「とてもシンプルなのに、驚くほど効果的な学習法」があるとしたらどうでしょうか?
教育学者のベンジャミン・ブルーム(Benjamin Bloom)が提唱した「マスタリー・ラーニング(Mastery Learning)」という考え方は、人の学習成果を大きく高める可能性を秘めています。そして、これにより「平均的な人」が「トップ2%のパフォーマー」に匹敵する成果を出せると示されたのが、いわゆる「ブルームの2シグマ問題(Bloom’s 2 Sigma Problem)」です。
マスタリー・ラーニングとは?
マスタリー・ラーニングとは、ある学習項目を完全に理解・習得するまで、次のステップに進まないという学習アプローチです。まるでブロックを積み上げるように、土台がしっかり固まってから次のブロックを積んでいくイメージです。通常の研修や教育では、学習者全員が同じスピードで進みますが、マスタリー・ラーニングでは以下の要素を重視します:
- 明確な目標:何を学ぶのか、目的をはっきり示す
- 柔軟なペース:学ぶスピードは人それぞれ
- 丁寧なフィードバック:間違いに対して具体的なアドバイスを提供
- 追加サポート:習得できるまで個別に支援
つまり、時間と支援さえあれば、ほとんどの人が高いレベルで理解・習得できるという前提になります。
「2シグマ問題」とは?
1984年、ブルームはある実験を行いました。通常の教室で学ぶ学生と、1対1の個別指導(=マスタリー・ラーニングの強化版)を受けた学生とで学習成果を比較したのです。
結果は驚くべきものでした。個別指導を受けた平均的な生徒は、通常のクラスに通う平均的な生徒よりも2標準偏差(2シグマ)優れた成績を収めました。この2シグマの差は、家庭教師をつける平均的な生徒が、通常のクラスに通う生徒の約98%よりも優れた成績を収めたことを意味します。
この「2シグマの差」が示すのは、平均的な人がマスターリーアプローチで教育を受ければ、トップ2%のパフォーマンスを示す人のスキルレベルに達することができるのです。これは非常に強力なアイデアです。
コンサルタントにとっての活用方法
このマスタリー・ラーニングの考え方は、私たちコンサルタントにとっても多くのヒントを与えてくれます。
- スキル構築に使う: 短期的な研修に頼るのではなく、重要なスキルにはマスタリー型の学習プロセスを導入しましょう。複雑なクライアントプロジェクトに取り組む前に、しっかりと理解・習得してから実務に移ることで、結果の質が大きく変わります。
- クライアントのプロジェクト: クライアント向けのトレーニングでも、単に「情報を伝える」だけでなく、本当に使えるレベルまで理解してもらえるる設計を心がけることで、成果に直結する研修が可能になります。
- パフォーマンス向上: 2シグマ効果を応用すれば、個々の学習ギャップを丁寧に埋めることで、チーム全体の実力が底上げされます。 一律の研修では見落とされがちな「個別の課題」に焦点を当て、柔軟に対応することが鍵です。
もちろん、すべてのメンバーにマンツーマン指導を行うのは現実的ではないかもしれません。しかし、「明確な目標」「柔軟な支援」「丁寧なフィードバック」といったマスタリー・ラーニングの基本原則は、あらゆる教育や人材開発の現場に応用できます。このアプローチを取り入れることで、私たちはチームやクライアントに「本当に使える力」を身につけてもらい、「可能性」を「現実の成果」へと変える手助けができるのです。